プルメリアと偽物花婿

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 五日目、それはハワイで一日を過ごす最後の日だ。
 非現実で夢みたいだった日々が終わってしまう。ハワイでの日々も、和泉と二十四時間共に過ごす日々も。

 この日はダイヤモンドヘッドに登ることにしていた。
 本当は日の出を見られたらもっと最高なんだけど、六月は季節的に難しい。それならばとツアーには参加せずにのんびり登山することにした。
 
 アサイボウル人気店に行く為に早起きをして、この日も見事にお目当ての朝食を食べることに成功した。グラノーラやフルーツにたっぷりのはちみつとアサイーは甘みと酸味のバランスが最高で、食感もいい。連日食べすぎて胃が疲れていたからさっぱりとした朝食は正解だった。

「ハワイ料理を堪能するためにスケジュールを組んでる気さえするね」
「旅行の醍醐味といえば食だから仕方ないですよ」
「わかる……。旅行といえば何よりもご飯だよ」
「気が合いますね、結婚しましょうか」

 私たちは軽口を叩きながらダイヤモンドヘッドの入り口に移動した。毎日楽なワンピースを着ていたけど今日は張り切って登山スタイルだ。
 片道四十分もあれば登れるらしいけど、何しろ登山経験がないし体力もあまり自信はない。

「和泉、体力に自信ある?」
「それなりには」

 そうだ。和泉はそういう人だ。さらりとなんでもこなしてしまう和泉は汗ひとつかかずに登れちゃいそうだ。

「最初はゆるやかなので大丈夫ですよ」
「もしかして三ヵ月前も登った?」
「いや前回は男だけで行ってひたすら海で遊んだので……。一応調べただけです」

 和泉はちょっと恥ずかしそうな顔をして言う。事前に調べておいてくれたんだ。和泉はスマートだけど、その裏で実はいろいろとしてくれていることがあるのかもしれない。そういうところが愛しいな。自分の小さな感情の動きがくすぐったい。
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