プルメリアと偽物花婿
 和泉の言う通り最初はなだらかに舗装された道が続いた。歩きやすいし、坂もほとんど感じないので普通の散歩の気分だ。
 周りの景色を見ながらあれこれ和泉と話すこともできた。
 余裕だったのはそこまでで、次には急な階段が待っていた。七十段以上を登り切ったときには息が完全にあがっていた。

「大丈夫ですか?」
「なんとかね……」

 荒い息を吐きながら答える。日頃の運動不足がたたった。だけど歩き続けなければ頂上にはたどり着けない。

 階段の次には洞窟のようなトンネルがあり、日差しから遮られると身体も気持ちも落ち着く。
 だけどトンネルを抜けた先には先ほどの階段よりもさらに急こう配で、段数の多い階段が待ち構えていた。
 これがうわさの階段か……。目の当たりにすると、なかなか気持ちが暗くなる。これを登るのか……。

「迂回もできますよ」

 俺はどちらでも問題ないですよ、という顔をして和泉が言った。
 
「でもこのままこっちで行く」

 迂回ルートも階段なのには変わりない。なだらかとはいえ、その分距離が長くなるなら最短距離でいくことにした。
 ぜえはあと息があがり、足が重くなってきたところでようやく頂上に到着した。
 
「つきましたね」

 さすがに和泉も息は荒い。たどり着けた喜びもあるが、まずはようやく終わった……という達成感だ。
 他の観光客もいるからまずは息を整えることにして、落ち着いてから私たちは景色を眺めることにした。

「わあ……!」

 頑張ったかいがある、とはまさしくこのことだ。
 一面に広がる青と緑。ハワイのすべてを凝縮した風景が絵画のようにそこにあった。
 ダイヤモンドヘッド近辺は豊かな緑が広がり、その奥にはワイキキの街のホテルが並んでいる。
 そして青い海。空と海の青は境目がなく、どこまでも澄み渡る美しい青だ。そこに白い雲が浮かんでいて、絶景というしかない。
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