プルメリアと偽物花婿
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 夜が訪れる前、移り変わっていく空はどれだけ見ていても飽きない。
 貴重で美しい一度きりの空を、贅沢にも食事を楽しみながら眺めている。

 和泉が予約をしてくれていたレストランは全席オーシャンビュー、清潔で高級感のある店内と和泉が用意してくれていたワンピースで自然と背筋が伸びる。
 出かける直前にシャワーも浴びて、ヘアメイクも直したから気持ちもしゃきっとしている。
 ふかふかの二人掛けのソファ席に座り、明るい青空からオレンジの夕焼け、そして薄紫に変わっていくのを眺める。
 せっかくだからとコース料理をお願いし、見た目も繊細で美しい新鮮な魚介料理が運ばれてきて、五感で幸せを感じる。

「はあ、幸せ……」

 何度か食べたアヒポキもコース料理の一つとなると、美しい盛り付けに変わる。
 自然と笑顔がこぼれ、ついついお酒も進んでしまう。ハワイに到着した日は、まだまだ日本モードではしゃがないようにしようなんて気にしていたけど。
 ハワイの明るさと、和泉に甘やかされて、つい肩の力が抜けてしまう。五日間かけて心のマッサージをされつくした気分だ。
 私の幸福なため息に和泉が嬉しそうに目を細めるから、ますます気持ちが緩んでしまう。

「先輩って食べてる時、本当に幸せそうですよね」
「みんなそうだと思うよ」
「まあでも嬉しそうで良かったです」

 ゆったりした気持ちで窓の外の景色を楽しんで食べていたら、あっという間にコースは終わりを迎えてしまった。
 最後のケーキとソルベまですべてが最高に美味しかった。
 
「この旅行はひたすら食べた気がする。ハワイ料理堪能してしまった……!」
「最高でしたね、かなり満足しました」
「希望を全部叶えられたから最高!」
 
 食に関しては二百点くらい楽しめたと思う。あまり事前情報がなかったわりにここまで満足できたのは和泉のおかげでしかない。

 ううん、この旅行が楽しかったのは全部和泉のおかげだ。
 
「今日が最後の夜ですね」
「うう、ハワイ住みたい」
「ははは、それは正解ですね。――先輩、今日はちょっと夜更かししませんか?」
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