プルメリアと偽物花婿
 そして山田さんに出会った。三十二歳。そこそこの会社で働いていて、そこそこの年収もある。見た目に大きな特徴はなく、つぶらで柔和な目が誠実に思えた。性格は穏やかで物静かな人。彼は長年付き合っていた彼女と別れたばかりで、次付き合った人と結婚したいと思っていたそうだ。
 
「長く付き合っているとタイミングを逃してしまうんですよね。だから次は結婚を前提に付き合いたいんです」
 三回目のデート、出会って一ヵ月。そんな言葉と共に私は交際を申し込まれた。
 
 私たちはきっとちょうどよかったのだ。お互い結婚がしたくて。お互い大きな欠点もなく、この人でいいかあ。くらいの温度感で。
 付き合って一ヵ月でどちらからともなく結婚しようかという流れになって。三ヵ月後に挙式の予定を立てた。それがこのハワイ旅行だ。
 
 唯一よかった点は、籍を入れるのは帰国してからの予定だったことと、二人だけの挙式だったこと。
 バツがつくこともなく、離婚で揉めることもなく、ゲストに迷惑をかけることもなく――って、これじゃあ別に婚約破棄自体は別にいいかと思っているようなものだ。

 山田さんとの半年間は、私に何も残さなかったのかなあ。真っ暗な空をなんともいえない物悲しい気持ちで見つめた。
 
 婚約破棄されたことよりも。驚くくらい、ショックを受けていない自分が悲しかった。

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