プルメリアと偽物花婿
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落ち着いたブラウンの内装に、穏やかな灯り、クラシックジャズの生演奏。洗練された重厚な空間に少し気おくれしてしまいそうになる。
だけど先ほどのレストランで飲んだシャンパンのおかげで気持ちは浮ついているし、和泉のプレゼントしてくれたワンピースはこの空間にもよく似合った。
私たちは滞在しているホテルのバーに訪れた。歩き疲れてくたくただけど、まだ一日を終わらせたくない。
ハワイアンカクテルとアペタイザーをオーダーして、最後の夜に乾杯する。パイナップルジュースが入ったハワイらしさを感じるカクテルを一口飲むと、少し気分が落ち込んでしまう。
「はあ現実に戻ってしまう~……」
「海外旅行は余計に思いますよね。日本、梅雨だし」
「日本に戻ったらまた、営業!営業!の日々だわ……」
「恐ろしいことを思い出してしまいましたね」
日本に戻れば、仕事に日々に追われる。それはしんどい。だけど。
旅行の最後だから、と主語を大きくしてみたけれど。
本当はこの五日間が楽しくて、穏やかなのにずっと楽しくて。
……和泉と一緒に過ごせなくなるのが、寂しいだなんて。
ぶつぶつと取引相手の名前をつぶやいている和泉の横顔を眺めてみる。
会社の後輩。隣の席の後輩。顔が良くて、仕事ができて、懐いてくれる可愛い後輩。それだけのはずだった。
なのに、今は隣にいてくれるとしっくりする。
「なんですか? まさか俺のこと好きになってくれました?」
ナッツを口に放りながら、なんの含みもない笑顔を向けられる。……私の頬が熱いのはカクテルのせい……だけではない。
「和泉のカクテルもおいしそうだね」
「一口飲みますか?」
「ううん、あとで私も頼んでみる」
「今日はいつもより飲みますねえ」
「明日は二日酔いしてもいいからね」
「なんならその方が飛行機でぐっすり眠れるからいいかもしれませんよ」
和泉との会話ってどうしてこんなにテンポよく進むんだろう、不思議だな。
男の人との会話ってこんなに楽しいんだっけ。和泉のトーク術なのか、和泉だからか、わからない。
私は目をそらして鮮やかなブルーのカクテルを見つめる。