プルメリアと偽物花婿
「俺は次は何にしようかな」
私も和泉もわりとお酒は強い方だと思う。だけど、寂しい気持ちが後押しするからか今日は二人ともほんの少しペースが早い。
和泉と同じブルーハワイベースのカクテルもすぐに飲み切ってしまった。手先がほんの少し鈍り、少し酔っ払っているなと自覚する。
「やけ酒みたいに見えますよ。カクテルをそんなぐい飲みみたいに」
グラスを掴む手を和泉がやんわりと覆う。
「現実に戻るから……また思いだしちゃいました? 婚約のこと」
「え……全然考えてなかった」
私の本音に和泉は笑った。私を寂しくさせるのはハワイと……和泉だ。
「じゃあどうしてそんなに傷ついた顔してるんですか」
和泉の手が私の眉間に移動する。気づかぬうちにまた眉間に皺を寄せていたらしい。
「寂しいなと思って。ハワイ終わっちゃうの」
またしても本音がこぼれる。和泉は今度は笑わなかった。
「また行きましょうよ。今度は本当のハネムーンで」
「ハネムーンは、ハワイじゃなくてまた別のところがいい」
次の本音に和泉は少しだけ目を見開いた。……私やっぱり少し酔っ払っているのかも。
こんな言い方だと、和泉との結婚を想像しているみたいだ。ハネムーンがあるみたいに。
「ま、まあ……同じところに行くよりも別の場所がいいですよね。今度はヨーロッパとかLAとかにします? それとも別のリゾート地か」
和泉は私の返事を本気にしていないのか、軽い調子で話を続ける。……私は和泉にどんな返事をしてもらいたかったんだろう。
「先輩? ほんとに酔っ払ってません?」
「わかんない」
少し舌足らずになってしまった返事に和泉は眉を下げて笑った。その表情を見ていると、少しだけ苦しい。ふわふわとしたこの気持ちも火照る頬も、お酒のせいだけではない。
――何かが私をずっと甘く締め付けている。
「そろそろ部屋に戻りましょうか」
和泉は残ったカクテルを飲み干して、私に手を差し出した。和泉の手は相変わらずひんやりしていて私の熱さが際立つ。
落ち着いたジャズの音が、私の身体にずしりと響く。
ハワイ最後の夜が終わる。――和泉の偽物花嫁でいられるのはあと少しだ。