プルメリアと偽物花婿
「う、うん。和泉といると、楽だし楽しいよ」
「はあ……。またハネムーンに行こうとか言うし……意味わかってます?」
そう聞かれると途端に恥ずかしくなる。さっきは軽くスルーしたから、どうとも捉えられてなかったと思ったのに。
「また和泉と旅行に行きたいと思ったし、旅行が終わるの寂しくなっちゃったから。ま、まあ和泉とは会社で会えるんだけどね!」
酔っ払うと口まで緩むらしい。ここまで言うつもりはなかったのに、勝手に口から言葉が滑り落ちる。
和泉は私をじっと見ると、またため息をつく。
「もうその可愛い顔、ずるいですよ。酔っ払った凪紗先輩だめです。照れがないからじっと見てくるし……見つめないでください」
「和泉が見るから見返してるだけ」
「俺は良いんです」
「何それ」
「……俺ずっと我慢してるんですからね、五日間。偉いと思いますよ、本当に」
和泉はぼやきながら目をそらした。和泉が照れる時と、照れない時の違いがわからない。でも照れている和泉を見るとくすぐったくなる。
どういう表情をしているのか、もう少し見たくて顔を覗き込もうとすると
「あー、もう。そんな可愛い顔してたらキスしますよ」
和泉が私の頬を両手で包み込んだ。熱を孕んだ瞳が私をもう一度見つめる。私だって恥ずかしい。だけど、和泉のこの瞳を今は受け入れたかった。
和泉が眉を下げて、少しだけ苦しそうな表情になる。
「そんな顔してたら、本当にキスしちゃいますよ」
「…………」
「…………」
だけどキスは落ちてこない。
「なんで嫌って言わないんですか」
「……嫌じゃないから」
「――この旅行に付き合ったお礼に、とか思ってます?」
「違うよ」