プルメリアと偽物花婿
 強引なくせに、こういうところは本当に強引じゃない。和泉の揺れた熱い瞳は、迷子の子犬みたいに頼りなくて、愛しい。
 
「正直和泉のこと、まだ恋愛として好きかはわからない。だけど、和泉といるとすごく楽しい。なのにどきどきもする」
「それって好きって聞こえるんですけど……」

 私の頬に触れた両手に力がこもる。和泉はますます困った顔をしている。
 恋愛はわからない。過去に一度だけ、大きな恋をした。でもその時の激しい気持ちとは違う気もする。こんなに穏やかで緩やかな柔らかい気持ちも恋と呼んでいいんだろうか。
 
「まだわからない。でも私、和泉のこと好きになりたい。一緒にいたい」

 言葉が震えたのは、酔っ払っているからじゃない。胸のうちを明かしたから。だけどこんなに素直に吐き出せるのはお酒のせいだとも思う。
 瞬間、和泉に引き寄せられて痛いくらい抱きしめられた。私の腰に大きな腕が回されて、私の頬は和泉の胸にしっかりと着地する。

「その言葉、破壊力大きすぎませんか」
「そうやってストレートに気持ちを言ってくれるのも嬉しい」
「いや、今ストレートに言ってるの凪紗先輩ですよ」
「……そうかも」

 和泉は少し身体を離すと、もう一度私の頬を両手で挟み込んだ。そのまま顔を持ち上げられると和泉の顔がよく見える。
 和泉は相変わらず困った顔をしていた。だけど熱い瞳はそのままで、ちぐはぐな表情に私の心臓が騒がしくなる。

「凪紗先輩、まだ百パーセント俺のことを好きじゃなくてもいいんで。俺の彼女になってくれませんか?」
「……でも私、まだ和泉のこと好きかわからないよ」
「そうでした、先輩は真面目なんだった。でも好きになりたいと思ってくれてるんですよね。それでいいですよ、(仮)でもいいです。お試しに彼女になってくれませんか?」
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