プルメリアと偽物花婿
「あ、あの! 和泉!」
反射的に大きな声が出る。和泉の手が止まって、瞑っていた瞳が開かれる。
「和泉に言ったことないんだけど、その、えっと。初めてで……」
「え?」
「そういうことは初めてで……」
「…………」
「つまり、そういうことです……」
和泉が目を見開くから、幻滅されてしまったのではないかと焦る。
「ご、ごめん! ほんといい年した大人が恥ずかしいんだけど、本当に恋愛経験が少なすぎて……」
「山田って本当にあほなのかな」
和泉はぽつりと吐き出した。
「えっと、だから婚約破棄されちゃったのかも……私がそういうの嫌がったから……」
「嫌がった?」
「嫌がったというか、ちょっと怖くて。実は過去にあんまりいい経験がなくて、えっと……だから最後までするのは結婚してからってことにしてて……」
もう本当に嫌だ、恥ずかしい。
きっと今の私と和泉は、そういうムード、だったのだ。大人の男女が素敵なホテルでお酒も入ってキスを続けていたら、そういうことになるはずなのだ。
それなのに私ときたら中学生の恋愛みたいに、好きがわからないとか、恋人って何とか、挙句の果てに「言葉なんていらないムード」みたいなのを中断させてしまうし。
本当に恥ずかしくて、情けない。
うまく恋愛できないまま、結婚しようとしてたことさえ恥ずかしい。
「あーもう」
和泉はそう言うともう一度私を抱きしめた。痛いのに優しくて、和泉は呆れているわけではないのだと伝わってくる。
「先輩、泣かないでください」
「え、泣いてた?」
身体を少しだけ離して、和泉が私の目元に触れた。ほんのすこし涙が滲んでしまっていたみたいだ。
「ごめんね、いい年して恥ずかしいよね」