プルメリアと偽物花婿
「……恥ずかしくないですし、俺ちょっと焦ってました。すみません。先輩が好きかどうか悩む理由もなんとなくわかりました」
「もうそんな事で悩む年齢じゃないよね」
「年齢とかはどうでもいいですけど――キスは嫌じゃなかったですか?」
和泉は気遣うように私を覗き込んだ。
「い、嫌じゃない! 驚いたし恥ずかしいし慣れてないけど、和泉にされて嫌なことはないよ」
「また破壊力が大きいこと言わないでください。俺めっちゃ我慢してるんですからね!」
「ご、ごめん」
「あーちがくて。今のは言い方が悪かったですね、すみません」
和泉は謝ると、もう一度私にキスをした。優しく、触れるだけのキスだ。
「俺キスだけで死ぬほど幸せです。先輩も嫌だと思ってないならキスはしてもいいですか?」
「……うん」
「まだ(仮)ですからね、焦らないようにします。先輩も本当、ゆっくりでいいですよ。なんにも気にしないでください」
和泉と私のおでこがこつんと触れ合った。
「でも男の人ってその……それでもいいの?」
「好きなものは最後に食べるタイプって言ったでしょ? 今はこうして先輩が俺の腕の中にいるだけで幸せすぎて死ねるので、全然いいです」
「ありがとう」
「キスはもう少ししてもいいですか?」
「いいですよ」
私の返事に和泉は白い歯を見せて笑った。
その笑顔が胸に詰まって少し苦しくなるのに、キスが続いてもっと苦しくなってしまった。
それなのに、このまま離れたくないと思うから不思議だ。
ハワイの最後の夜が終わる。だけど、明日からも和泉と一緒に過ごせる。寂しさは薄れていた。