プルメリアと偽物花婿
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キスをこんなにしたのって、いつぶりだろうか。
きっとあの恋以来だ。山田さんともキスはしたけど、情熱的なキスはしたことがない。義務的に、恋人としてこなしておいたほうがいいだろうという気遣いのキスだった。熱のないキスは別に私だけでない、山田さんからも感じ取れた。
最後の朝がやってきて。目をあけると和泉は今日も私をニコニコと見つめている。昨日までと違うのは起きてすぐ頬にキスをひとつされたことだ。
「またそうやって見てる……」
「この日課も終わってしまうのかあ」
「よし、朝ご飯食べに行こう! 顔洗ってくる!」
私は気恥ずかしさから五秒でベッドを抜け出してバスルームに移動した。鏡にうつる自分の唇に触れてみる。日焼けしたみたいにひりりと痛い。
「どれだけしたんだ……」
自分で出した言葉に赤くなる。
ふわふわと熱に浮かれた頭と息苦しさで、空気を求めるように和泉とキスを続けてしまったかもしれない。
……こうして朝になってみると、ものすごく大胆なことをしてしまったのではないかと恥ずかしくて和泉の顔が見れそうにない。
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こうして私たちの五泊七日のハワイの旅は終わった。
絶望の婚約破棄、偽物のウエディング、最終的に(仮)とはいえ和泉の彼女になっているジェットコースターのような一週間。
「空港ついたらとんかつ食べましょうね」
「あーそんなこと言ったらもう口の中が味噌汁だよ」
「食べたくなってきましたねえ」
私たちは搭乗を待つロビーで久々の日本に想いを馳せた。関係が変わっても話すことは変わらなくて安心する。
「そういや凪紗先輩」
「はい」
「先輩って家どうするんですか? 引っ越すんでしたよね、山田んちに」
「あ……あー!」
「まさか忘れてたんですか」
和泉は半分笑って半分呆れたように言う。
か、完全に忘れていた。そうだ……。ハワイ挙式の後にもう一つ大きなイベントがあったのだ。
山田さんは自分の分譲マンションを持っていて、私はそこに移り住む予定になっていた。荷造りもほとんど終えているし、何より私のマンションは今月末で解約だ。
「ま、まあ大丈夫。あと二週間あるから」
帰国日と翌日も会社は休みだ。そこで探しきってしまうか、今のマンションにダメ元で解約をキャンセルできないか聞いてみよう。
「悩まなくてもいいですよ。俺の家に引っ越せばいいんですよ」
「え?」
「だって先輩は俺の彼女ですからね」
和泉はニコッと笑顔を向けた。やっぱりこういうときは強引で有無を言わせない力がある。
「これからも凪紗先輩の寝顔を見れそうだなあ」