プルメリアと偽物花婿

6 現実でも続く二人の生活


 夢みたいなハワイから一転、私は段ボールまみれの自室にいる。
 雑多なこの部屋は「現実!」と主張していて、あまりの落差に目眩がしそうだ。

「はあ、どうするかなあ」

 自分のつぶやきにますます心がぽっかりと空いたみたい。

「ラーメンでも食べにいくかあ」

 美味しいものを食べて元気を出す。そうしよう。私は近所のラーメン屋に出掛けることにした。

 
 あの後――。
 行きの飛行機と同じように私たちは別々の席に座った。今後について考える間もなく私は眠ってしまった。まだ前日のお酒が抜けていなかったし、身体も疲れ切っていたし、その……キスは日付を超えても続いていたから。
 日本に到着した時には既に夜で、私たちは空港で希望していたとんかつを食べて。それから、解散した。

 ハワイにいる間は和泉と美味しいものを食べた後、そのまま同じ部屋に戻った。特別に触れ合っていたわけでもないし、何かがあったわけではない。
 それなのに。一人でタクシーに乗って、一人で1Kの部屋に入った瞬間、言いようのない喪失感が私を襲った。
 たった一週間、和泉と一緒に過ごしただけなのに。もう十年は一人暮らしをしているのに。

 それは今も同じだ。近所のお気に入りのラーメン屋さん。いつもと変わらず美味しい。求めていた味だと思う。
 だけど隣で「おいしいですね、最高ですね」と笑ってくれる和泉がいないと、なんだか変な感じがする。
 おかしいな。一週間前までは、こうして一人で食べるのが当たり前だったのに。

 帰国翌日。私はこの日も休暇を取っていた。本来なら今日、私は山田さんと婚姻届を出しに行く予定だった。
 その後、ちょっといいレストランを予約していて、帰国後そのことを思いだして慌ててキャンセルの電話をしたら、既に山田さんにキャンセルされていた。
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