プルメリアと偽物花婿

 山田さんと話がしたい。感情的な話でなく、今後についてすっきりさせたい。
 ハワイはドタキャンされたし、婚約破棄をしたいと言われている。彼の中で終わった話かもしれないし、未練があるわけでもない。
 でも半年縁があって、未来まで考えた人なのだから。一方的なブロックで終わらせるのでなく、せめてさよならを言い合いたい。そう思うのは私が真面目すぎるんだろうか。
 だけど電話は繋がらず、メッセージも送れないままだ。

 こうして現実に引き戻されるとやるせない。引っ越し先だってどうするか決めていない。
 朝一番に管理会社に連絡したが、既に次の入居者が決まっていて、この家を出ていかないといけないのは確実だった。
 
 和泉の顔が思い浮かぶ。和泉は今日から出勤だと昨夜嘆いていた。
 ……和泉は一緒に住もうと提案してくれたけど、さすがにすぐには頷けない。一週間の旅行とは違うのだ。
 お試しの彼女としては甘えすぎているし、仮に真剣交際の彼女だとしても付き合ってすぐに同棲を開始していいのか。こうやって一人で冷静に考えるとブレーキがかかる。
 ひとまず退去のリミットは二週間後。ラーメンを食べたら不動産屋をまわろう。
 自分を励ますために餃子を追加で頼むことにした。

 **

「はあ、疲れた……」

 ハワイ旅行の翌日に物件を見て回るものではない。しかも明日からは現実の象徴・労働が待っているのだ。
 二件見学しただけで頭痛がしてきて、私は早めに帰宅することにした。しかもどちらもあまりいいとは思えず、完全に無駄足だったことが疲れに拍車をかけている。

 私はベッドに倒れこむ。ハワイの高級ホテルとのマットレスとの違いに切なくなる。
 時刻は十九時。一応帰り道にコンビニで適当に夕食を買ってきたが食べる気にもならない。
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