プルメリアと偽物花婿
 私のつぶやきに和泉が顔をしかめたところで料理が届いた。
 和食系の居酒屋だから、焼き鳥や揚げ出し豆腐など食べたかったものが並んでいく。

「一応確認しますけど、山田に連絡を取ろうと思ったのってなんでですか」
「え? 顔を合わせてさよならした方がいいかなと思って――」
「まあそれならいいですけど……」
「何かあった?」
「帰国してすぐに連絡取ろうと思うのが、俺じゃなくて山田っていうのがなあ」

 揚げ出し豆腐をつついていた箸が止まる。それは……嫉妬というやつだろうか。

「事務的な連絡だよ」
「でも先輩、俺に連絡してくれなかったですよね。昨日と今日」
「昨日は夜まで一緒にいたし、明日会えるから」

 和泉はふてくされた顔をしながら焼き鳥にかみつく。

「俺は今日一日先輩のこと考えて、終わったらすぐに連絡しようと思ってたのになあ。現実つらいとか一言でも送ってくれたら良かったのに」
「そんなことで連絡してもいいんだ」
「え、全然いいですよ! 用がなくともいつでもしてください」

 なるほど。世の彼氏彼女というものはそういうやり取りもするんだろうか。
 山田さんとはデートの約束を取り付けたり、何か連絡事項があるときしかメッセージを送らなかった。

「だけど今日私も和泉のこと考えたよ。お昼食べてるときとか」
「えっ」

 和泉が身を乗り出すから、私は小さく笑ってしまった。

「おいしいね、ここの料理。最寄り駅なのに初めて来た」
「はい。この刺身最高ですね。ハワイの海鮮も最高でしたけど、日本の刺身が結局一番好きかもしれません」

 うん。やっぱりこうして和泉と一緒に食べるご飯が一番美味しい。
 私が笑みをこぼすと、和泉のふてくされてた表情が溶けていく。

「先輩が食べてる姿見るの好きだなあ」
「私も和泉と食べるの好きだよ。いつもより美味しいって思う」
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