プルメリアと偽物花婿
「待って。私は本当に山田さんと結婚するつもりだったんだよ」
「じゃあこの写真はなんなんだ! 山田は架空の人物だったんじゃないのか!」
菜帆がふざけた口調で、和泉のスマホを指さした。
「話すと長いんだけど……山田さんと結婚するつもりだったのは本当。実在する人物。でも空港に行く直前に婚約破棄されたの」
証拠としてメッセージを見せると「げ……」と菜帆はリアクションを取ってくれる。
「それで婚約破棄の現場にいた俺がハワイに一緒に行こうと言いました! あ、断食道場に行くつもりだったのは本当ですよ」
「和泉、持ってるねえ」
「でしょ? あのとき外にお昼行かなくて本当に良かったですよ。それでなんだかんだあって結婚しました」
「なんだかんだでは全くわからんけど。まあとにかくよかったね! 一般的に考えても山田より和泉のがずっといいよ! おめでとう!」
ざっくばらんで細かいことを気にしない菜帆は祝福をしながら「それとは別に山田は制裁しないとね!」と付け加えた。
「社内で噂になってるけど、本当に結婚したならもうそれでいいよね。結婚するまでは付き合ってたこと隠してたってことにすればいいし、何にも問題なし!」
「ですよね、俺もそう思ってました。山田は架空の人物だったことにしましょう」
「いや。私と和泉、まだ結婚してないけどね」
「結婚してるのに?」
菜帆は和泉のスマホの画面を私に見せつける。そこにいるのは紛れもなく、タキシード姿の和泉とウエディングドレス姿の私である。
「まあ……結婚式はしたんだけど……」
「それでハワイで一週間ハネムーンも楽しんできたんでしょ?」
「まあ……そうですね……」
「いちゃついてきたわけでしょ?」
「……それはどうだろうか……」
キスを思い出して羞恥で逃げ出したくなる。菜帆が生暖かい目を向けているのが、俯いていてもわかる。だけど多分菜帆が聞きたいのはキスの有無ではないはずだ。