プルメリアと偽物花婿
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 結婚を機に家電や大きな家具はすべて処分することにしていた。
 既に粗大ごみの手配をしていたし、和泉の家にもさすがに入りきらない。どうせ一人暮らしを始めた学生時代から十年も使ったものだ。私の新居が決まったら新調すればいい。
 食器類や生活用品もほとんど処分していたし、荷ほどきはそこまで時間はかからなかった。
 和泉が用意してくれた私の部屋には大きなウォークインクローゼットもついていて、洋服をかけるだけでほとんどが終わった。
 
 リビングは気後れするけれど、私に用意された六畳間はそこまで緊張することはない。
 壁紙や床板が賃貸に比べて随分お洒落だとはいえ、そこに自分が持ってきた小さなテーブル、布団、カラーボックス、プラスチックケースなんかを並べると……。
 一気に庶民の部屋になった、安心感がある。あのリビングを作り上げているのは、高そうな家具家電の力も大きそうだ。

「ベッドだけは欲しいかも」

 山田さんとの新生活。シングルベッドを持ち込むのは失礼な気がして、ベッドも処分していた。……夫婦として同じベッドで眠る生活に、覚悟なんて出来ていなかったくせに。

「ああでもベッドがあると引っ越し料金かかるかな」
 
 今回も家具家電がない分かなり安く引っ越しすることができた。和泉の家に居候させてもらうのは一応ひと月の予定なのだし、このまま布団で生活するか。
 家探しと並行して、新しい家具家電も買わなくてはいけない。一ヵ月あるとはいえ、計画的に行動した方がよさそうだ。
 
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「カロリーが高いものってなんでこんな美味しいんですかね」
「同意する」

 引っ越しと言えば宅配ピザですよね!と和泉が言うから、今夜はピザ。
 油たっぷりのピザが引っ越しで疲れた身体にはしっくりくる。そもそもこの数日ろくなものを食べていなかったから、きちんと机に座って食事をするというだけで満たされる。
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