プルメリアと偽物花婿

 強い日差しに照らされて和泉が笑顔をこぼした。なぜか私の傷心旅行に付き合ってくれる後輩だっている。一人だったらもっと卑屈だった。
 
「うん、そうしよう」
「梅雨の日本から来たから、清々しさが段違いですね」
「ほんとに。気持ちいいなあ」
 
 今は六月。ジューンブライドだ。日本のじめじめした空気が信じられないほどに、ハワイの空気はさっぱりしている。うーんと伸びをして空気を取り込んでみる、気持ちいい。

「まだお昼には早いですし、少し店を見て回りませんか? 俺、水着を買いたいんですよ」
「水着?」
「はい。だって俺、断食道場に行くつもりだったんで。水着なんてありません。服もたいしたもの入れてなかったし……」
「そういえば断食道場に行くって言ってたね」
 
 和泉の言葉を思い出す。断食道場に入らないと、世の中を破壊してしまうとか言っていた気がする。

「破壊願望はもう落ち着いたの?」
「はい! 凪紗先輩とハワイに来れたので!」

 ニカッと明るい笑顔が向けられた。……この笑顔からは想像がつかないけど、和泉も気に病むことがあったのだ。
 それなら、ハワイで一緒にストレス発散するのもいいのかも。この青空の下で鬱々とした気持ちが吹き飛ぶということは、私自身が体験したばかりだ。

「はあ、旅行に行くってわかってたらもっとちゃんとした服を持ってきていたのに……!」
「断食道場に行くならおしゃれ不要だもんね」
「よし、服も買いましょう!」
「私もハワイっぽい服を買おうかな!」
 
 二人でヤシの木を追い越すようにどんどん歩く。今までの人生で見たことがないものを知る楽しみと、ほんの少しのヤケクソで、私の歩幅は自然と大きくなった。

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