プルメリアと偽物花婿

「期限を決めた方が真面目な先輩にはいいかな、と思ったんですがどうですか?」
「……そうだね。ちょうど家を出ていく時期になるし……」
「本当の彼女になるならこのままこの家に住んでも良くないですか?」

 和泉の腕が私の肩に回される。

「この手は」
「もう一回抱きしめてキスしようかなと。一カ月半しかないですからね。俺がいないとダメって思ってもらわないと」
「…………」
「勝率高い気がしてきたので、ぐいぐい行こうかと。あっ、嫌なことはしませんから嫌だったら嫌って言ってくださいね」
「今日はもう嫌だ」

 私の言葉に和泉はパッと手を離した。なぜか嬉しそうな顔をしている。

「ひとまずお母さんに写真だけ送ってあげたらどうですか? 先輩だけがうつってるのもありましたよね」

 和泉はさらりと話題を変えた。そうだ、元々はそこから始まった話だった。
 
「でも、」
「おばあさん、楽しみにしてるんでしょう」
「うん」

 偽物の花嫁の姿を送ってもいいんだろうか。これは騙していることにならないだろうか。
 そんなことを考えてしまうから、頭でっかちと言われるんだろう。

「あんまり考えすぎなくてもいいと思いますよ」

 私はお母さんに、私だけが写ってる写真を一枚送り『写真のデータまだ届いてないから残りはまた今度。お盆は帰るね』とだけ返信した。これなら嘘はついていない。

「じゃあお盆まで、本当の恋人と認めてもらえるように頑張りますね」
「……私もちゃんと考えるよ」
「先輩にはあんまり考えすぎないで欲しいんですけどねー。余計なこととかネガティブなことばっかり考えそうで」

 ……それは一理ある。考えれば考えるほど、悪い方向に向かってしまうのが私だ。

「それともう一つ。凪紗先輩の心に残ってるしこり、取り除いておきましょう」
「しこり?」
「はい。――山田ですよ。決着つけましょう」
 
< 76 / 136 >

この作品をシェア

pagetop