プルメリアと偽物花婿

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 コンビニのおにぎりを齧りながらマウスを動かす。
 お昼休み。私は山田さんの勤務先のアクセスを調べていた。

 私の心のしこり。山田さんとのこと。昨夜、和泉に指摘されたことだ。
 ハワイから現実に帰ってきて。溜まった仕事もひと段落つき。引っ越しも終わった。
 向こうから連絡は拒否されているし、終わったこと。だけど私が進むためには向き合わないといけないことだ。

 電話もメッセージも送れないのであれば、直接会うしかない。
 山田さんの会社は水曜日はノー残業デーで十九時には上がることを知っている。
 社内共有スケジューリングを開いて、私の水曜日のスケジュールに『十八時半 退社』と記入する。

 山田さんと会うことは怖い。完全に拒否されていて、山田さんにとっては直接別れを告げる価値もない相手。
 そんな相手が会社の前で待ち伏せをしている。きっとすごく嫌なはずだ。どんな表情を向けられるか、言葉を投げられるか。想像するだけで、胸がぐぅっと締まる。
 
 だけど。和泉との未来を考えるなら。これはちゃんと清算しないといけないことだ。
 別に山田さんに慰謝料を請求するつもりはない。ハワイの旅費も半額払ってもらっているし、お金の問題はそれくらいでいい。
 それならわざわざ傷つきに、山田さんに会う必要はないのかもしれない。
 でも、未来に進むために必要なことだ。きっと私にとってはすごく。
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