プルメリアと偽物花婿
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忘れていたわけではない。気にしないようにしていただけだ。昨日からすっかり得意になった現実逃避。
目の前のダブルベッドが「現実を思いだせ!」と私に訴えかけている。
「ウェルカムフルーツだ、スパークリングワインもありますよ」
アロハシャツを着て常夏の男になった和泉が、嬉しそうな声を上げた。
浮かれた格好をしているのは私も同様でお揃いの柄のムームーを着ている。「ハワイといえばこれでしょ!」と二人でテンションが上がって購入してしまった。買い物をある程度終えてロイヤルハワイアンセンターのフードコートで軽食を取った私たちは、ホテルにチェックインした。
テーブルの上には、氷に冷やされたワインボトルとシャンパングラスが二つ。そしてパパイヤとマンゴーがプルメリアと共に美しく盛り付けられている。
そして英文で結婚を祝うメッセージカードも添えられていた。
せっかくのハネムーンだから、とホテルは少々奮発して。憧れのホテルのオーシャンフロントを予約することができた。
ハワイ固有種の木材・コアウッドを使用したフロントはネットで見ていた通りで気持ちは高まったし、白を基調とした開放感のある明るいこの部屋も想像していたよりもずっと素敵だ。
だけどダブルベッドを見ると、落ち着かない気持ちになる。
和泉が手配したのは航空券だけで。一緒に旅行をする=同じ部屋に泊まる、ということにはなんとなく気づいていたけど、言葉には出さなかった。
和泉はまるで気にする様子もないんだから。彼は哀れな先輩の傷心旅行に付き合っているだけなのだし、意識しているのは私だけな気がして。
「バルコニーもありますよ。海の向こうにダイヤモンドヘッドも見える!」
和泉はバルコニーに出てはしゃいだ声を上げた。バルコニーには椅子と小さなテーブルもあり、景色を眺めることができる。
固まったままの私を見て、和泉は部屋の中に戻ってきた。
「先輩。そんな警戒しないでくださいよ」