プルメリアと偽物花婿
「はい。知り合いに良い弁護士がいたので。まあそこまでもらえるかはわかりませんけど」
和泉が裏でそんな行動をしているとは思わなかった。
「先輩がすっきりしてるなら余計なことかなとも思ったんですよ。だから渡すかは決めてませんでした。だけどあの態度を見て」
「そっか、ありがとう。――山田さん結局一度も謝らなかったし、なんだか噛み合わなくて、正直ちょっとイラッとしたんだ。だから、ありがとう」
「かかった費用だけでもしっかり取りましょうね」
「そうだ。和泉は田中さん、大丈夫なの?」
またしてもばったり会ってしまって運命だと想いを深めてしまったんじゃないだろうか。
「田中さんについては、ゲーム事業の部長に相談して相手の会社と話してくれるみたいです」
「それならいいけど……」
「ひとまずお疲れ様でした」
和泉は空になった私のグラスにまたシャンパンを注いでくれる。
「和泉、本当にありがとうね、全部。和泉がいてくれなかったらこんなにちゃんとさよならは出来なかったよ」
「そりゃ俺としては山田のことはすべてさっぱりしてほしかったですから」
「うん。でもきっと今までの私だったら終わったことにして会社まで行くことなんてなかったよ。和泉とのこれからを考えて、全部決別したかった」
「そうですか」
和泉はそう言ったきり黙ってシャンパンを飲む。どうやら照れているらしくてかわいい。
未来まで考えていた人との思い出が跡形もなくすべて消えてさっぱりするかわりに、人間って薄情なのかもしれないとも思う。
……和泉もいつか思い出になってしまったら。
蓋をかけて厳重に開かぬようにする過去になるのも、一ミリも残さない更地になってしまう過去になるのも嫌だった。
「次の問題はこの家を出ていくかどうか、でしたっけ?」
和泉はもう可愛い顔をしていなくて、私の髪の毛を自分の指に巻き付けて遊んでいる。
「まだ(仮)は取れないのかなあ」
和泉は私を抱き寄せながら楽し気な声を出す。
過去にしたくないから踏み込みたくない。でも今和泉と離れても手遅れなくらい思い出が積もってしまっていた。