プルメリアと偽物花婿
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一週間経ったけれど、いまだにここが今の自分の住処だということは慣れない。
少し硬いグレーソファに座っていると、和泉は私の隣に座り水を手渡す。
「そんなに酔っ払っているようには見えないんですけど、具合悪いんですか?」
菜帆は本当に和泉を呼んでいて、まだオフィスにいたらしい和泉は十分とたたないうちにやってきた。菜帆は「凪紗がべろべろのぐでぐでになっちゃったー!」と呼んだらしく、和泉は慌ててきてくれたらしい。
……私は酔っ払っているわけもなく。だけど和泉に気持ちを伝えなくてはならないという使命感で口数少なくなってしまう。
「体調は全然大丈夫! ちょっと酔ってたけど、もう全然」
「まさか山田のことを思い出してやけ酒してたとか言わないでくださいね」
「もう山田さんのことは本当にいいから」
「あ、そうそう。山田の件ですけど、弁護士に連絡があって支払ってくれるみたいですよ」
「えっ!」
たった二日しか経っていないのに早い。和泉は弁護士からのメールを見せてくれた。
山田さんとの結婚準備に関わる費用、つまりハワイの私分の旅費、結婚指輪代、引っ越し費用の百万円はすぐに振りこんでくれるということだった。
「慰謝料も取ろうと思えば取れると思いますが、もう少し時間がかかりますね」
「いや……ハワイは普通に楽しんじゃったし、慰謝料はそれで充分だよ。それにしてもよく払ってくれたね」
先日の山田さんの表情から考えるに渋りそうな気がしたけれど。
「ああいう男は外聞を気にしますからね。それにこれは山田との婚約がなければ発生しなかった費用ですから。それは相手もわかってるんでしょう」
「……ありがとう」
私が罪悪感を感じないほどの請求にしてくれたのだろうと思うと、和泉の心遣いが嬉しかった。
「家具家電も処分しちゃったし、今後を考えると助かる」
「その分も請求します? ――というか、先輩やっぱりここ出ていくつもりなんですか?」
私の膝に和泉の膝が当たる。こうやって近くにいることがこんなにも当たり前になっている。
気づけば当たり前になっていた。自分から手を伸ばさなくても、和泉はいてくれた。だからこそ――。
「うん。出ていこうと、思ってる」
私は頷いた。和泉はじっと私の次の言葉を待っている。その瞳が不安に揺れるから私は慌てて喋った。