プルメリアと偽物花婿

 
 凪紗先輩に憧れていたくせに、運命だとか思ったくせに。もし、凪紗先輩が俺のことをそういう目で見てきたら、幻滅するかもしれないな、そんな冷めたことを考えていた。

 予想に反して、いや、思い出の凪紗先輩の通りなのかもしれない。
 彼女は本当にまっとうにただのメンターとして振る舞った。親睦をかねてランチでも、ということだったが、前部署ではどのような仕事をしていたか、を聞かれた後は、部署について楽しく語ってくれた。営業時間にする話でもないからね、と笑いながら。

 メディアコンテンツ部とゲームコンテンツ事業部は、同じ会社とは思えないほどに、業務内容も提供サービスも、利用顧客も異なる。ほとんど一から教えてもらうことになるし、営業先を引き継ぐことになるから同行も多い。
 異動して毎日一、二時間は先輩と時間を共にすることになった。
 
 思い出の中の凪紗先輩は、俺の中ではちょっとした女神みたいな人で。
 そんな人が毎日隣にいて、当たり前に働いていて、俺に話しかける。それは少し不満でもあった。女神が現実味があるのもなんだかな、という自分勝手な感情だ。
 凪紗先輩が結婚を考えている恋人がいることも少し腹立ていたのかもしれない。自分が先輩とどうにかなるつもりもないくせに、初恋がけがされたような気がして。ひどく身勝手な理由だ。

 初心でピュアだった少年は十年のうちにひねくれた少し面倒な大人になっていた。それなりに付き合ったり、別れたりを繰り返していても心になんの波も立たない。自分でもいうのもなんだが、モテすぎて女というものに呆れというか諦めのようなものを抱いていた。
 
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