プルメリアと偽物花婿

 ――女性が気持ち悪い。
 一度そう思ってしまうとどの女性に対しても嫌悪感が出てきた。だけど仕事ではたくさん女性に会わなくてはいけなくて。そして笑顔を振り向かないといけない自分が心底嫌いになりそうだった。

 得意先だから、断るわけにもいかない。女性からのアピールを信じてもらえるとも思えない。
 吉田さんは仕事は出来るし、うちよりずっと大手で、得意先だ。
 吐き気をこらえながら、打ち合わせ場所として指定されたホテルに向かおうと

「A社の打ち合わせに行ってきます。時間も遅いので直帰しますね」


 凪紗先輩に声をかけると、先輩は立ち上がり自分の鞄を持った。

「今日は私も行くよ」
「え?」
「和泉、何か困ってることがあるんじゃない?」
「なんでそう思ったんですか」

 彼女に困っていることを相談したことはなかった。ゲーム事業の時から女性に困ったことは何度かあったし、つい最近もプチストーカーについて相談したのを笑い飛ばされたばかりだったから。

「最近やたらA社に呼び出されてない? 和泉のスケジュール見てたらちょっと多いし、今日も場所がホテルでしょ。今までそんなことなかったから……何かクレームが入った?」

 前任は凪紗先輩だったから、担当者のことも打ち合わせ頻度についても詳しく知っている。

「いえ、クレームというわけではないんですが……」
「和泉が良ければ同席してもいいかな? もしかしたら解決できることがあるかもしれないし」

 先輩は先方を怒らせたと思っているのかもしれない。
 もしくは俺が至らなくて、先方が困っていると思ったのかもしれない。
 ……俺が仕事ができないと思われているのか? そう思うと少し悔しい気持ちにもなったけど、吉田さんと二人きりにはならなくていいのならもうそれでよかった。
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