プルメリアと偽物花婿
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ホテルについたところで吉田さんからメールがあった。
予定していたカフェが満席だったから、三十階のバーに変更したからそこに来てほしいという内容だ。
そのことを伝えると凪紗先輩は眉を寄せる。
「バーで打ち合わせ?」
「ええ。元々はカフェで予定していたみたいですが満席だったようで」
だけど吉田さんの魂胆にはなんとなく気づいている。指定された打ち合わせ時間は十九時。このままお酒が入って、いいムードになろうという企みとしか思えない。
「元々のカフェは?」
先輩はエレベーター前で案内図を見ながら質問する。
「二階です」
先輩は俺を連れてまずカフェに移動した。案の定二階のカフェに空席は多々あった。
「和泉はこのカフェでお茶飲んでてくれる?」
先輩はそう言うとすぐにカフェを出ていった。
落ち着かないままコーヒーを飲み、三十分もしないうちに凪紗先輩が戻ってきた。先輩もコーヒーを頼むと俺に向き直る。
「和泉、遅くなってごめんね。――もしかして嫌な目にあってたんじゃないかな?」
先輩の目は俺を全く疑っていなかった。何を吉田さんと話してきたのかわからない。だけど先輩が気づいていて詰め寄ったとしても証拠があるわけでもない。吉田さんはベテランの営業マンで、口は相当回るはずだ。何より俺は男で向こうは女だ。……だけど、先輩は俺を疑っていない。
「吉田さんは何か言っていましたか?」
「特別に何も。でも私が担当になるのは嫌みたい。和泉の仕事ぷりを褒めてたよ」
軽く笑うと、また真剣な表情に戻って