御曹司と再会したら、愛され双子ママになりまして~身を引いたのに一途に迫られています~【極甘婚シリーズ】
「もちろん、君と子供たちの気持ちを最優先にする。今までふたりを育ててきたのは君だ。手を出してほしくないところもあるだろう。とりあえずそれを探るためにもやらせてほしい」

「……ありがとうございます」
 
胸に言いようのない安心感が広がった。

シングルマザーとしての双子の子育ては、幸せでもあるけれど、過酷だった。
 
とくにこちらへ来てからの数カ月は本当に大変で、故郷では父がいてくれたから乗り越えられたのだということを痛感する毎日だった。

いつまでこの日々が続くのかと未来に対する不安に押しつぶされそうになり、夜眠れなかったこともある。
 
金銭面だけでなく、彼が父親として子育てを一緒に担ってくれるなら、こんなにありがたいことはない。

「ありがとうございます」
 
声が少し震えてしまう。

「受け入れてくれてありがとう」
 
龍之介が優しい声を出した。

「もうひとつ、君に約束してほしいことがあるんだが」

「はい」

「家では『副社長』は禁止だ。俺のことは名前で呼べ。俺も家では君を名前で呼ぶ」

「え⁉︎ な、名前で?」
 
またもや意外な彼からの要求に、有紗は目を剥いた。
 
そんなことできるはずがないと思うのに、彼は当然だというかのように頷いた。

「母親が父親を『副社長』と呼ぶ家があるか? 俺たちの関係がどうだろうと子供たちには関係ない。なるべく安定した環境で育てたい」

「そ、それは……そうですが」
 
彼の言うことは間違っていないと思うけれど、だからといってできるかと言われれば別だった。

「副社長のことを名前で呼ぶなんて私にはできません……! 子供たちにとっては父親ですが、私にとっては副社長ですし……」
 
龍之介が目を細めて立ち上がる。そして大股にこちらへ来て、有紗の隣に腰を下ろした。

「有紗、子供たちのためだ」
 
名を呼ばれて息を呑む。自分の意思とは関係なく頬が熱くなっていくのを止めることができなかった。
 
彼に名前を呼ばれたのは、あの夜以来だ。
 
あの夜の自分の名を呼ぶ甘い響きを帯びた低い声音。

夢の中で何度聞いたかしれない彼の声を、今現実に耳にして、平常心でいられるわけがない。

「だけど……」

「それに俺も家ではリラックスしたいんだ。君に副社長と呼ばれていては切り替えられなさそうだからね。そういう意味でも名前で呼んでほしい。ほら、練習だ。今呼んでみてくれ」

そうとまで言われては、これ以上拒否するわけにもいかない。
 
彼は首を傾げて、どこか楽しげな表情で有紗の言葉を待っていた。

「りゅ、龍之介さん……」
 
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