御曹司と再会したら、愛され双子ママになりまして~身を引いたのに一途に迫られています~【極甘婚シリーズ】
「いや、そうではない」
 
龍之介が首を振って、気を取り直したように有紗を見た。

「完璧だよ。しかもわかりやすくていい。そういえば最近、アジアエリア課から上がってくる資料が見やすくなったと思っていてね。たいてい作成者の欄に君の名前がある」

「え? あ、ありがとうございます」
 
有紗は頬を染めて答えた。
 
全世界の事業を取りまとめる彼なのだ。目を通す資料は膨大な量に上るはず。

内容ならともかく作成者まで気にかけているなんて驚いたなんてものではない。
 
さすがは、敏腕副社長だ。

「せっかく支社から送られてきた貴重な情報ですからなるべく正しく早くお伝えしたいと思って作成しています」
 
嬉しくてドキドキしながら有紗は言う。
 
龍之介が頷いた。

「ありがとう、助かるよ。私が的確な経営判断を下せるのは、君のような社員が支えてくれているからだ」
 
その言葉に有紗の胸が熱くなる。
 
ついさっきまで感じていた彼に対する苦手意識が薄らぐのを感じていた。
 
龍之介がわずかに微笑んで、またモニターに視線を移す。唐突に話題を変える。

「ところで君は、ジャカルタ支社についてどう思う? 決して悪くない数字だが、この半年横ばいだ」
 
質問の内容に、有紗は戸惑い瞬きをする。
 
データの分析や営業成績については本来は総合職の領域だからだ。

有紗の名前を把握していた彼なのだ。有紗が一般職だということを知っているはず。
 
とはいえ、聞かれているのだから、答えないわけにはいかなかった。少し考えてから口を開く。

「頭打ち……のようにも思えますが、まだ伸びる余地はあると思います。とくにこのあたりの分野が」

「なるほど。アジア圏ではあまり力を入れてこなかった部分だな」

「はい。ですから、例えば北米チームのノウハウを応用すれば……」
 
モニターに写るデータを指差して答えると、彼が口もとに笑みを浮かべる。
 
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