御曹司と再会したら、愛され双子ママになりまして～身を引いたのに一途に迫られています～【極甘婚シリーズ】

自分を見つめる切れ長の目に、この場に相応しくないある言葉が頭に浮かぶ。
　
——東洋の黒騎士。
　
その目に見つめられるとどんなに美しい女性もひれ伏して愛を乞う。
　
ネットニュースで見た海外タブロイド誌の言葉だ。

「あの……？」
　
会話の途中に訪れたやや不自然な沈黙に耐えきれず、有紗は戸惑い掠れた声を出す。
　
その有紗を見つめたまま、彼はどこか不敵な笑みを浮かべた。

「決まりだ」

「え……？」
　
不可解な彼の言動に、有紗は首を傾げるが、彼は疑問に答えなかった。
　
背後の秘書を振り返り、目配せをする。秘書が心得たというように頷いた。
　
そして彼はまた有紗に向き直った。

「手を止めてしまって申し訳なかった。そのデータ頼むよ。では私はこれで」

「はい……お疲れさまです」
　
彼はにっこりと優雅に笑って踵を返し、靴音を鳴らして去っていった。
　
有紗はすぐには作業に戻れずに、彼が出ていった入口を見つめる。
　
今起きたことが、なんだか夢の中の出来事のように感じていた。
　
——それにしても。
　
さすがは週刊誌を騒がせた人物だ。
　
その目に見つめられるとどんな美女も愛を乞うのだという記事を、有紗は大袈裟だと思っていた。

タブロイド誌特有の世間の目を引くための作り話だと。

でも今は、あながち間違いでもないと感じている。
　
恋愛は一生しないと決めていて、しかも彼に苦手意識があった有紗ですら、ほんの数分話をしただけでまだドキドキしているのだから。
　
そんなことを考えているうちに、入口が騒がしくなる。ランチミーティングに参加していた他の社員たちが帰ってきた。

「お疲れ〜」

丸山も隣の席に戻ってきた。

「大丈夫？　なにもなかった？」

「とくには、なにも……」