御曹司と再会したら、愛され双子ママになりまして~身を引いたのに一途に迫られています~【極甘婚シリーズ】
刺々しい詩織の視線を感じながら、有紗は龍之介の後を追う。打ち合わせをしながら、廊下をエレベーターに向かって歩く。

「副社長はおひとりで先に大使館へ向かってください」

「君は?」

「私はサウスエリアで大使への手土産を調達してから後を追います」
 
サウスエリアは、ベリが丘最大のショッピングモールがあるエリアで、世界各国の高級店や、日本の老舗ブランドが軒を連ねている。ランチに誘われて手ぶらで行くわけにはいかない。

「大使は、体調の関係で酒は控えているそうだ。それから婦人は和菓子に目がない」

「了解しました」
 
エレベーターに乗り込み、自ら一階のボタンを押した龍之介が、有紗を見てふっと笑った。

「優秀な秘書を持って、ありがたいよ」
 
切れ長の目に見つめられて、有紗の鼓動がとくんと鳴る。頬が熱くなるのを感じて慌ててうつむいた。

「ま、まだまだですが、こういった事態にはだいぶ慣れました」
 
世界中の支社を取りまとめる龍之介のスケジュールは想像以上に過密だった。

しかも今みたいなイレギュラーな事態も少なくはない。
 
はじめは戸惑いオタオタしたが、今はたいていのことは即座に対応できるようになった。

「本当によくやってくれている。予想以上だ。やっぱり私の目に狂いはなかったと自分を褒めたいよ」

「ありがとうございます」
 
突然の賞賛に、有紗は頬を染めて答える。
 
龍之介が彼はやや申し訳なさそうにした。

「渡辺くんのことだが」

「はい」

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