御曹司と再会したら、愛され双子ママになりまして~身を引いたのに一途に迫られています~【極甘婚シリーズ】
彼女に手を振り、有紗はため息をつく。そしてコンビニ目指して方向転換をした、その時。

「真山」
 
聞き覚えのある声に名前を呼ばれて足を止める。

不思議に思って見回すと通りの陰から龍之介が現れた。普段のスーツ姿ではなく普段着のラフな格好だ。

「副社長……⁉︎」
 
慌てて有紗は周りを見回す。飲み会のメンバーに見られたらややこしいことになりそうだからだ。

「どうしたんですか? こんなところで」
 
今日彼は、運転手がノースエリアにある自宅へ送り届けたはず。それ以降は、明日の朝の出勤まで自宅にいる予定になっている。

「おひとりですか?」

「ああ、通りかかったら騒ぎになっているのが目に入って……。君の姿が見えたから」
 
少し気まずそうに彼は言う。その言葉の内容に有紗の頬がカァッと熱くなる。

さっきの女性社員とのやり取りを見られていたというわけだ。

「さっきのを……すみません……こんなところで騒いでしまって」

「いや、君が謝ることはないだろう。むしろ……」
 
そう言って彼はそこで言葉を切る。そのまましばらく逡巡している。

「副社長?」
 
呼びかけると、意を決したように口を開いた。

「今から少し話をしてもいいかな? 数分で済む。家まではタクシーで送る」
 
有紗は戸惑いながら頷いた。
 
どこか自信なさげにも思える、こんな様子の彼ははじめてだ。普段は常に冷静で、どんなに重い決断も迷うことなく下している。
 
彼はBCストリートを駅とは反対方向へ歩き出す。

その先は港だ。海沿いの遊歩道までくると彼は足を止めて振り返る。
 
真っ黒な海に月が浮かんでいた。

「今日はおひとりだったんですか?」

「ああ、少し海を見にいこうかと思ったんだ」

「海を?」

「時々、頭を空にしたくなる時があってね。そういう時は海を見にくる」
 
そう言って彼は海に視線を送り気持ちよさそうに目を細めた。

『頭を空にしたくなる』
 
どこか寂しげな言葉とその眼差しに、有紗の胸がギュッとなる。
 
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