御曹司と再会したら、愛され双子ママになりまして~身を引いたのに一途に迫られています~【極甘婚シリーズ】
自分を見つめる柔らかな眼差しから目を伏せて、有紗は少し話題を変える。

とはいえ、今一番心配なのはそれだった。
 
有紗の退職が決まってから、秘書課ではすぐに後任の選定が始まった。

何人かの候補を挙げるところまでは進むのだが、龍之介がなかなか首を縦に振らない。

今のところ第一秘書は空席で千賀を中心として秘書課全体で彼をサポートすることになっている。
 
秘書課は優秀な社員ばかりだから、それでも問題ないだろうが、やはりあうんの呼吸で動けるわけではない。彼の仕事に支障が出ないかが心配だ。

「まぁ、しばらくは無理じゃないかな。君を見つけるまでも時間がかかった。わがままな上司について来られる人材はなかなかいない。君が戻ってくるのを待ってるよ」
 
肩をすくめて、冗談を言う彼に、有紗は口もとに笑みを浮かべた。
 
冗談だとわかっていても「はい」と声に出して答えることができなかった。それはとてもできそうにない。
 
たとえ父親の状況が落ち着いて、ベリが丘に戻れる日が来ても、有紗は彼の元へは戻れない。

詩織と結婚し夫婦になった彼のもとで働き続ける自信がない。

「その時はリリーパリスのチョコレートを机に載りきらないくらい用意して待ってるよ」

「そ、そんなにたくさん食べられません」

「まぁそうだね」
 
彼がそう言った時、デザートがサーブされる。

チョコレートケーキだった。

深い艶のある黒にまるで星空のように金粉が散りばめられている。

「わぁ、美味しそう……」
 
呟くと、龍之介が満足そうに微笑んだ。

「ここのケーキも好評だ。今夜は君のために特別に用意してもらった」
 
ひと口食べて有紗はため息をつく。 

「美味しい……」
 
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