御曹司と再会したら、愛され双子ママになりまして~身を引いたのに一途に迫られています~【極甘婚シリーズ】
「あん、まんまんま!」

「あ、本当だ、わんわんだ! おっきいねえ。こうくん」

「うー、わんわん」

「そうそう、上手上手、けいくん」
 
朝の街を息子たちを乗せたベビーカーを押して、有紗は保育園を目指している。

今日はいつもより少し早く出ることができたから、ふたりとの会話を楽しむ気持ちの余裕がある。
 
先日一才のふたりは、少しずつ意味のわかる言葉を口にするようになってきて、こんな風におしゃべりをしてくれる。

「あら、双子ちゃん? 可愛いわね」
 
信号待ちで、隣に立った年配の女性が、ふたりを見てにっこりとした。

「はい、双子です」
 
有紗は微笑んで答えた。双子は目立つのか街を歩くとこんな風に声をかけられることも少なくない。

ベビーカーのふたりは不思議そうに女性を見上げている。

「あら? お顔はそっくりだけど、髪はちょっと違うのね」
 
彼女の言う通り、ふたりは顔はよく似ているが髪が違う。圭太はストレートで晃太はふわりとした癖毛だった。

「そうなんです。なぜかそこだけ違ってて」
 
女性がにっこりと笑った。

「それぞれ、ママとパパに似たのかな」
 
信号が青になり、女性は双子に手を振って横断歩道を渡っていく。
 
有紗もひと呼吸遅れてベビーカーを押した。胸がちくりと痛むのを感じながら。
 
この痛みは、父親に会えない状況にしてしまったという双子に対する罪悪感と、身籠ったことを黙ったまま勝手にふたりを生んだ、彼らの父親に対する罪悪感だ。

「あまあま」

「うー、ぶうぶう」
 
可愛いふたりの会話を聞きながら、有紗は足早に保育園を目指す。街路樹は芽吹き、頬をくすぐる風は随分と暖かくなってきた。

ふたりの父親……龍之介と別れた朝も、こんな春を感じる日だった。

 ——あれから二年……か。
 
あの時は、まったく想像もしなかった未来に自分はいる。
 
彼と一夜をともにした次の日の朝、有紗は龍之介がまだ寝ているうちにル・メイユールを後にした。

朝目覚めた彼と、顔を合わせるのが怖かったからだ。
 
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