御曹司と再会したら、愛され双子ママになりまして~身を引いたのに一途に迫られています~【極甘婚シリーズ】
龍之介は、社内では大企業の役員にしては珍しく一般社員との交流を大切にするので知られている。
 
とくに会社の心臓部とも言われている海外事業部には、都合のつく限り上層階の役員室から下りてきて、話をして現場の社員の意見を吸い上げる。

たいていは昼時で、ランチミーティングと称して、ツインタワーにあるVIP専用レストランでランチをご馳走してくれる。
 
そこでは、報告書に上げるまでもないような些細なことが話題にのぼるという話だが、彼は熱心に耳を傾けているのだという。

そこから実現した労働環境の改善や新規プロジェクトも少なくはない。
 
だからこんな風に彼がフロアにやってくると皆出席したくてソワソワする。

「来週あたり業務が山場になるだろう? その前に、皆の機嫌をとっておこうかと思ってね」
 
軽口をたたいて、龍之介は優雅に笑う。
 
旧華族の家柄に生まれて、大企業のいずれはトップに立つ人間だが、高慢なところは微塵もない。それどころか、社員を大切にし、気遣いを忘れない人格者だ。
 
海外事業部は激務で、ともすると離職率が高くてもおかしくはない部署だ。が、ここ数年龍之介が本社の指揮を執るようになってからは誰ひとりやめていない。
 
それは、海外支社を飛び回り現場で経験を積んだ龍之介の経営判断が的確だからだとも言えるが、それだけではないだろう。

皆、彼のカリスマ性とリーダーシップに魅了されて、この人の元で働きたいと思うのだ。

「副社長、お疲れさまです。じゃあ、キリのつく人は行っておいで」
 
龍之介からの提案に、課長の浜田が皆に言う。三十人ほどいる社員の大半が立ち上がった。

「ランチか、どうしようかな。私は行けるけど……」
 
丸山が呟いて、チラリと有紗を見る。
 
行きたいけれど、急ぎの仕事に取り組んでいる有紗に遠慮しているのだ。
 
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