御曹司と再会したら、愛され双子ママになりまして~身を引いたのに一途に迫られています~【極甘婚シリーズ】
幻か見間違いであってほしいと願ったが、あたりまえだがそうではなく、有紗のよく知る彼だ。
 
どうか気づかれませんように。
 
まさか社員ひとりひとり彼に向かって自己紹介するはずはない。

この場で気づかれなければ、切り抜けられる。さりげなく一歩下がり、隣にいる同僚の陰に隠れた。
 
龍之介が皆に向かって話しはじめた。

「はじめまして。天瀬商事の天瀬龍之介と申します。この度の件は驚かれ、不安に思われたことと思います」
 
彼は社員たちに、買収にあたっての経緯を丁寧に説明する。
 
以前より世界に通用する花田文具の商品に、注目していたこと。
 
古きよき日本の技術を世界に展開していきたいこと。
 
それでいて、急激に事業を進めるのではなくあくまでも今までの丁寧な仕事を主軸にすること。

「花田文具のクオリティは社員の皆さまあってのものです。これからもよろしくお願いします」
 
彼がそう締めくくると、社員たちから自然と拍手が起こった。

皆彼の言葉に感動し、会社の先行きが明るいと確信する。
 
——変わっていない。
 
皆に合わせて手を叩きながら、有紗は胸が苦しくなるのを感じていた。
 
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