はいはい、こちら中野通交番です。 ただいま就寝中。

7.

 最近は本当に子供を殺す大人が増えてしまった。 いくら産んでもこれじゃあ少子化は止まらないよ。
生活云々の問題も有るだろうけど、それより何より男も女も生まれた命を大切にしてほしいわなあ。
 自分勝手すぎるんだよ。 男も女も。
 やりたいだけやればいいのか? 気持ち良くて楽しければいいのか?
そんなんするんだったらなあ、最初からエッチも何も出来なくしてやるぞ! 欲しくても産めない人だって居るんだ。
欲しくないのに産んじゃう人だって居るんだ。 考えてくれ。
 何も考えないでエッチだけするんだったら犬以下だよ。 そんなやつは嫌いだな。
どんなに縁が有っても俺は会いたくないし関わりたくもない。
 だいたいなあ、子育てってどんなことなのか分かってないだろう?
懐かないから殺した? ふざけるんじゃねえよ。
 子供を懐かせるんじゃなくてお前が懐かないから子供が怖がるんだ。 分かってないなあ。
子供はね、俺たちが感じるよりもっと深く相手を観察してるよ。 それにも気付いてないだろう?
 赤ちゃんだって周りの大人たちを敏感に感じてる。 意識してないけどね。
それは俺たちが感じている以上に鋭いもんだよ。 子供のあんたには分からないだろうがね。

 厳しくすればいいって思ってる親も居る。 子供には何も言えない親も居る。
普段は何も言わなくてもいざとなれば厳しい親も居る。 どっちがいいのかね?
 え? 結婚もしてないのに偉そうに言うなって? それはすんませんです。
でも思ってることは言っておかないとね。 少子化対策も間違った方向に行きそうだから。
 金さえ撒けばいいってもんでもないんだよ。 暮らしが楽になればいいってもんでもないんだよ。
大問題は人との繋がりをどうやって作っていくかってことだ。 地域をどうやって繋いでいくかってことだ。
 子育ても葬式も地域ぐるみで関わり合う社会に戻すんだ。 それしか無いと思うよ。
 さあさあ昼ですよ。 さっきから姉ちゃんは椅子に座って居眠り中ですけど、、、。
「こらーーーーーーーー! 起きろーーーーーーーーーーー!」 わざと怒鳴ってみる。
 「んもう、うるさいなあ。」 「何がだよ?」
「あんたよ。 あんた。」 「俺はこれから昼休みなんだ。 邪魔しないでくれ。」
「あーーーら、私も昼休みよーーーーーー。」 「ダメだ こりゃ。」
 姉ちゃんはまたまた椅子に座り直しておにぎりを食べてます。 「いいからさあ、ショップに戻りなよ。」
「いいもーーーーん。 ちゃんとやってくれてるから。」 「こうやってか?」
 俺は姉ちゃんの脇をコチョコチョしてみる。 「うわーーーー、姉を虐めるやつが居るーーーーー。」
「だからうるさいっつうの。」 俺が口を塞ぐと、、、。
「虐めだあ。 私を殺そうとしてるーーーーー。」 それを無線で言っちゃったもんだから大変。
 「あのなあ、事件でもない限り無線は使うな。 馬鹿。」 「ほら見ろ。」
「何がよ?」 「姉ちゃんのおかげで俺が怒られただろうがよ。」
「たまにはいいじゃない。」 「何がだよ?」
 姉ちゃんは澄ました顔で缶コーヒーを飲んでます。 「ゴミは持って帰ってね。」
でもさあ、姉ちゃんは頷きながらゴミを置いていくんだよなあ。 この確信犯目。

 「さてと、電話してやろうかな。」 「何処によ?」
「ショップだよ。 ショップ。」 「わわわわわ、やめてくれーーーーーー。」
「何でだよ? いいじゃん。」 「ダメダメダメ。 サボってるのがばれるから。」
「うわ、白状したな。 やっぱりサボってたのか。」 「違う違う違う。」
 姉ちゃんは必死に弁解してますが、どうも違うような、、、。 「じゃあさあ、吉山さんにでも聞いてみようか?」
「やめてくれーーーーーーー。 帰るからやめてくれーーーーーーー。」
姉ちゃんはそう言うと慌てて飛び出していきました。 馬鹿。

 さあ、のんびりと休ませてもらいましょう。 何もすることは無いんだからね。
ポツリポツリと雨が降ってますねえ。 たまにはこんな日も有るか。
前の通りをパトカーが走って行きました。 うちには寄っていかないのね?
 雨音が強くなってきました。 昼から土砂降りの予報だったな。
欠伸をしながら机に伏せております。 呑気なもんですわ。
 「中野通交番 居るか?」 「はいはい。」
「お、居たか。 よしよし。」 それだけ言って無線は静かになりました。
 たまには仕事させろよな。 待ってんだから。
まあ、それはいいとして巡回でもしますかね? 雨の中をお散歩ですわ。
 傘をさすと何も出来ないからレインコートを着ますですよ はい。 長いと引っかかるからジャンバーみたいなやつをね。
さあさあ、いつものように巡回です。 何か起きないかなあ?
 そう思いながら劇場やスーパーを回ってみますです。 泥だらけの猫が走ってますねえ。
川も今日は流れてますなあ。 うん、いい感じ。
 遠くにはぼんやりと山が見えます。 何て山だったっけ?
山登りなんて興味も関心も無いから分からないわ。 またパトカーが来たぞ。
 クラクションを鳴らすから何かと思って振り向いたら、、、。 「犯人かと思ったよ。 ごめんごめん。」だって。
馬鹿にするなっての。 俺は何なんだよ?
 グルリと一回り。 今日も何も無し。
隣町では殺人事件が起きたって騒いでるのに、、、。 もしかしてその犯人がこっちに逃げてるのか?
 兎にも角にも平和な町だ。 姉ちゃんさえ騒ぎを起こさなければね。
さあさあ帰ってきたぞ。 ウルトラマン。
「止まりなさい! 止まりなさい!」 やけにパトカーが騒いでいる。
そして交番の前を猛スピードでシルビアが走り過ぎて行った。 「なんだい、あれは?」
その後を猛スピードでパトカーも走って行った。 「カーレースでもやってんのか?」
 玄関を開けて見回してみるとまた2台のパトカーが走って行った。 「カーチェイスでもやってんのかな?」
「中野通交番 居るか?」 そこへ無線が入ってきた。
「居ますけど、、、。」 「居た居た。 真っ赤なシルビアが逃走している。 見掛けたら情報をくれ。」
「5分前に通り過ぎましたけど、、、。」 「おー、そうか。 じゃあいいわ。」
(何だよ、、、。) 無線はまたまた静かになった。

 パフパフ! なんか変な音がする。
(何だろう?)と思って玄関を開けてみたら、、、。 近所の暇なおっさんだ。
 「おー、お巡りさん 元気かね?」 「ああ、元気が良過ぎて困ってるよ。」
「そうかそうか。 それはけっこうなことだな。」 おっさんはそう言うとラッパを鳴らしながら通り過ぎて行った。
 痩せこけたくせに元気はいいんだよ あのおっさん。 いっつもフラフラと何処まで歩いてるんだろう?
気にはなるけど追い掛けるタイプでもないし事件を起こしたわけでもないから俺はテーブルに伏せてのんびりすることにした。
 この辺にはホームレスが出没する公園通りが有る。 夏になると公園内で何人かが寝泊まりしているのを見掛ける。
大雨が降った時には交番の二階に泊めることも有るんだけどな。
でもやつらは何処からやってきて何処へ行くんだろうね? 全く不思議な人たちだ。
 昼休み、ボーっとしているとまたまた声が聞こえる。 遠いから良くは聞こえないが喧嘩しているらしい。
「また喧嘩してるのか。 酔っ払いのあのおっさんたちだな。」 特に気に留める必要も無く俺は机に伏している。
 おっさんたちの喧嘩はまだまだ続いている。 近くのラーメン屋の辺りだ。
 チラッと見てはみるけど殺人にまでは至らなそうだから首を引っ込めて、、、。
それにしてもこれでもまだまだ平和な町だ。 ほんとに警棒を持ったことが無い。
そのうちに黴でも生えるんじゃないのか? ピストルだって棚の奥に眠ったままだしなあ。
もちろん銃弾も一つや二つは置いてあるよ。 でも見たことも無い。
こんなんでいいのか? 俺で良かったな。
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