空が消えた世界

16歳 夏の約束

何度も何度も思い出す。


忘れたい1日と、絶対に忘れたくない毎日を。
それらは、胸の底で絡まっていて解けない。

無理に解こうとするたびに記憶がほつれていく気がする。
何度も、何度も断ち切ろうとした。

でも心はそんなに強くはなくて、突然真っ二つに切り離すのは無理だった。

甘くて、幸せな初恋だった。
そのまま私たちは大人になると思ってた。そう願っていた。

でも終わりは突然やってきて、どうしようもなかった。
そう頭では理解していても、心には黒いもやが溜まっていって。

毎日毎日同じことを考えている。

今みたいに。

乗っていたバスを降りて、暑さを忘れるために無心で足を動かす。

途中の花屋で花を買う。
2年間毎月同じ日に来ているから、さすがに店員さんにも覚えられ最近になって世間話ぐらいはできるようになっていた。

無心で歩いて君の待つ場所へ行く。
近づいていくほどに段々とスピードが上がっていく。

はやく。はやくあなたに会いたい。
そう思う気持ちとは裏腹にだんだんと足が進まなくなっていく。
まるで誰かに足を掴まれているように。

はやる気持ちを抑えるように。
あなたに会いにいく勇気を出すために。
深い深い深呼吸をする。

「空。来たよ」


彼の前でそう声をかける。
もちろん返事は帰ってこない。


「今日はね、すごくいい天気なんだよ。暑いでしょ?」

雲ひとつない青空。
今の私には眩しすぎるぐらいだ。
「見えないよね.....」

そう呟いた弱々しい声は蝉の声にかき消されていった。
そっと息を吐いて彼に笑いかけて、先程汲んだ水を彼にそっとかける。


正確には彼の眠る冷たい『石』に。


優しく優しく水をかけて、丁寧に拭く。
花屋で買ったひまわりを太陽に照らして言う。


「見て。今日はひまわり買ってきたの。空、ひまわり大好きだったよね。すごく綺麗だよ」


太陽の光に照らされて逆光になり私からはひまわりの影しか見えないけれどきっと彼はそれでも綺麗と言うだろう。

頭の中で彼が『そうだね』と微笑む。
もう彼が私の目の前であの笑顔を浮かべることはない。
そう思い知らされて1人でへこむ。

楽しそうな親子の声で現実に戻された。
夏休みだからか普段よりも人が多く、歩いていく人の視線をひしひしと感じる。

それもそうだ。女子高校生がひまわりを持ってお墓に向かって話しかけているんだから。
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