魅惑の絶対君主
「それはさておき、気分悪いとかじゃないよね」
「あ、はい。それは全然大丈──夫じゃないって言ったら、あがらせてくれるんですか……?」
「いいよ。その代わり明日の訓練の時間が倍になるけど」
「え、ぇ〜……」
相楽さんはやっぱり相楽さんだった。
浴槽の中でよりいっそう体を丸めながら、相楽さんの分をあける。
そんなことをしなくても、この豪華なお風呂場、あとひとり入れるスペースは余裕であるんだけど。
ザプ……とお湯が溢れた。
相楽さんに背中を向けた状態で体育座りをしているわたしは、その気配にぎゅっと目を閉じた。
「もうちょっとこっち寄って」
「…………」
「寄れ」
覇気のない命令口調だったけど、びくっと肩が震える。
「はい……」と返事をしかけたそのとき。
ちゃぷ……と水面の揺れる気配がしたかと思えば、不意に後ろから抱き寄せられて。
浮力が働くせいで、すーっといとも簡単に体が後退し、相楽さんの腕の中にすっぽり収まった。