魅惑の絶対君主
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これからが本番だと警戒してたのに、なぜか服を脱がされることはなく。

相楽さんは一度ベッドを下りると、なんとホットミルクを片手に戻ってきた。



はい、と渡されたそれには何か裏があるんじゃないかと思ってしまって、つい。



「なんで……。どういった心境の変化ですか……?」

「普通に労りの気持ちからだけど」

「え、は……ありがとうございます」



毒やらクスリやらじゃ、ないよね。


おそるおそる一口すすれば、まろやかな風味が広がり。


「わ、美味しい……」と思わず声に出してしまった。


温かいものが体を巡りながら、ぐちゃぐちゃに散乱していた心を元ある場所に戻していく。



「相楽さんは飲まないんですか?」

「俺は煙草あるからいい」



そう言うと、一本を取り出してベランダへ出ていこうとする。


“煙草、体に悪いですよ”。

ありきたりなセリフが頭をよぎったけど、呑み込んだ。


そんなことは本人もわかってるし、親しくもない他人が咎めることじゃないし。

そもそも、咎めようとして喉まででかかったわけじゃない。


もちろん、吸いすぎてて心配……っていう思いもあるにはあるけど。


とっさに声を掛けようとしたのは、何でもいいからもうちょっと話していたい……という気持ちから。

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