魅惑の絶対君主


地上10階って、思ったより高いんだなあ……。

ベランダに出て最初に思ったことはそれ。


本気で追い詰められたら、漫画みたいに雨どいを伝って下りる手段とかも一瞬考えてはみたけど、無理そう……。



「冬亜」



軽い絶望感に襲われているところに、相楽さんから声がかかった。


「ちょっと退いて」

「えっ」

「俺が左行くから」

「はあ……」


とりあえず言われるままに隅によけて。


相楽さんが左側に立ったあとで、わたしに煙が掛からないように風上に置いてくれたんだとわかる。



「ありがとうございます」


見上げたとき、ちょうど強めの風がふいて、相楽さんの髪を揺らした。


隠れていた額が露わになって、相変わらず綺麗だな、と思う。



「相楽さん……」

「うん」

「て、苗字ですか?」

< 118 / 245 >

この作品をシェア

pagetop