魅惑の絶対君主


「冬亜」



羊を数え始めて169匹目、ようやくうとうとしてきたときに名前を呼ばれて。

豪速トップギアで意識が現実に引き戻された。


黙れって言ったくせに自分からは話しかけてくるの、相変わらず横暴だ。



「なんで……しょうか」

「さっき、わざわざ起こして悪かったね」


「え?」

「夜中に急にインターホン鳴って怖かったでしょ」


「……うん、ものすごく怖かったけど、あのときまだ起きてたし、起こされたわけじゃない、です」

「夜更かしは感心しないな」


「っ、相楽さんが帰ってこないからですよ……。心配で寝れなくて、ずっと」

「はは、そう」


もう、なにが「はは、そう」なの。

そこは普通「ごめんね」じゃないの?



「もう無理しないでください」


返事はなかった。

代わりに、再度強く抱きしめられる。


物理的な苦しさも加わって、ますます眠れない気がしてくる。


でも相手は病人なので、文句は言わないでおいてあげた。


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