魅惑の絶対君主
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「相楽。上で役員が呼んでる」



事務所ですれ違いざまに声を掛けられた。


よくあることだ。

呼び出しと称して、与太話の相手をさせられるだけ。


うんざりしつつ“従順”がしっかり板についている体は自ずと上の階へと向かう。




「お呼びでしょうか」



中に入れば、座れ、と視線で命じられた。



「相楽、その死んだ目いい加減どうにかならねぇのかあ? 取引先から苦情が来ちまうよ」

「そうですね。でもあなたはこの死んだ目が好きなんでしょう」



相手が煙草を咥えたので、火を差し出す。



「そんで……三者面談はどうだったんだ、話してみろよ」

「何事もなく無事に終わりましたよ」


「そういうことを聞いてんじゃねぇんだよ、わかるだろ? そいうや俺も、お前の保護者として学校に顔を出してやったことがあったなあ」



そう言いいながら煙を吹きかけてくるこの男は


──かつて、俺の“担当”だった。


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