魅惑の絶対君主


わたしの家──アパート二階の角部屋。

玄関前、廊下の手すりに気だるげにもたれる一人の男性。


後ろ姿だけで、遠目からでも“あの人”だってわかった。

気づけば一歩後ずさっていた。


どうしてウチの前にいるの……?


昨日八万円渡したばっかりなのに、まさかもう取り立て?


地道に貯めてたバイト代の20万円が金庫にあるにはあるけど、あれがなくなったら生活できなくなってしまう。



……ひとまず、彼がいなくなるまで身を潜めたほうがよさそう。

そう思って、そろりそろりと後退する。



そういえば、二人組は一緒じゃないのかな。

ていうか、お母さんは中にいるはずだけど……居留守を使ってるのかな。


……と、不思議に思った直後のこと。


なんの前触れもなく、彼の視線がわたしを捉えた。



「……──っ、え」


見下ろす瞳に呑まれたのが最後、体が硬直する。

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