魅惑の絶対君主
振り向く気配全然なかったのに。
気づいたら目が合ってて……ええっ?
一瞬すぎて何もわからなかった。
しかも、ここの位置は彼からは死角になっているはず。
たまたま振り向いた先にわたしがいた……という感じでもなかった。
だって、わたしのことを瞬時に的確に捉えたんだもん。
野生の勘でも持ってるのかな。
やっぱり只者じゃない。怖い!
なんて考えているうちにも、彼はゆっくりと階段を下りてきている。
ウチのアパートの鉄骨階段は、上り下りするたびに音がカンカン響いてうるさくってしょうがないのに、
彼は最後まで足音ひとつ鳴らすことなく、わたしの前に立った。
そして
「臓器売るか、身体ごと売るか。今すぐどっちか選んで」
……淡々と、そう言い放った。