魅惑の絶対君主
急に馴れ馴れしくすると不審がられるだろうから、まずはコミュニケーションをとるところから始めてみることにした。
「……あのっ、相楽さん」
すっごく怖いけど、怖がる素振りは見せられない。
隣の運転席に向かって、できるだけ明るく声を掛ける。
相楽さんの家って、どの辺なんですか?
そう続けようとした、けれど。
「俺、名前教えた覚えないけど」
「っ、あ……」
フロントミラー越しに目が合って、早くも会話に行き詰まった。
落ち着け。
相楽さんはただ至って普通の疑問をぶつけてきただけ。
わたしのことを怪しんでるわけじゃない。
「き、昨日、他の方がそう呼んでたのでつい……。す、すみません」
すると小さく笑われたので、ますます焦る。
「え……あ、もしかして間違ってましたかっ? “サガラ”さんじゃなかったですか⁉」
「いや、合ってるよ。昨日、俺がお前のいる場所で名前を呼ばれたのはたった一回だったのに、よく覚えてたなって感心しただけ」