魅惑の絶対君主
一回だけ……。
そうだったっけ?
記憶を辿ってみるもはっきりと思い出せない。
なにはともあれ、合っててよかった。
名前を間違うなんてとんだ無礼を働いて、初っ端から嫌われてしまったら笑えない。
ドッドッドッ……と、心臓がワンテンポ遅れて荒れ狂った音を立てる。
相手の機嫌を伺うだけでこのザマ。
この先が思いやられる……。
……ていうか。
わたしの前で名前を呼ばれたのが一回だけだったって、そんなことを覚えてるほうがよっぽどすごい。
すごいを越えて怖いくらいだ。
「で、何」
「えっ」
「続き、なんて言おうとしたの」
「あ……えっと……っ、……なん、だったっけ」
パニックのあまり、声に出さなくていい部分まで出てしまう。
「ちょっと待ってください、今思い出しますっ」
「………」