魅惑の絶対君主
“寄り道”の場所にたどり着いたのは、それから十分ほど経った頃。
しゅるっと目隠しを外されて、最初に見えたのは、ぼんやりとした灯りに包まれた雑居ビルだった。
無機質ながらも上品な外装。
看板に並ぶアルファベットは難しくて読めない。
「えっと……ここは?」
「会員制のBar。オールドボトルを多数扱ってる貴重な店だよ」
「バー……って、お酒を飲むバーですか?」
「ああ」
「わたしたち、今からお酒飲むんですか?」
すると、またくすっと笑われた。
「冬亜は酒弱そ」
ええ……返事になってないよ……。
と思ったけど、従順な演技をしなくちゃいけないので、声には出さない。
「じゃあ行くよ」
そんな声と同時に、手を取られた。
「っ、え」
「逃げたら殺すからねー」
なんて雑な脅し。
だけど、言ってることはあながち嘘じゃないんだろう。
逃げません、という意味をこめてその手をぎゅっと握り返した。