魅惑の絶対君主


果たして本当に逃げ切れるのかどうか……は、置いといて。


湯船の中で体を丸めながら考える。



思えば、お母さんがわたしを褒めたり抱きしめたりするのは、美味しいご飯をつくったときと、お金を渡したときだけだった。


もちろん、勉強もスポーツもいたって平均的なわたしに褒めるところなんて他にあるわけはないけど。


夏休みの絵画コンクールで市の特別賞に選ばれたときも、

中学三年間無遅刻無欠席の皆勤賞で表彰されたときも。

「そうなんだ~よかったね」と、うわの空の返事で済まされた記憶がある。



わたしの学年があがるにつれて、お母さんが家にいない日が増えていった。


男の人と遊んでばっかり。

そして破局するたびに『冬亜がいるからフラれた』と酷い八つ当たりを受けたことも数知れず……。



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