魅惑の絶対君主


それでも、ご飯を作れば『美味しい』と言って抱きしめてくれたし、
一緒にお買い物に行った日には可愛いお洋服をたくさん買ってくれたりもした。



当時、男の人にご奉仕するお店で働いていたお母さんは、すごく高いお給料をもらっていた。


もらった分だけお金を使うせいで毎月かつかつではあったけど、少なくとも周りの目から見て「貧困家庭」には映らなかったと思う。



嫌なことがあって落ち込んだり、誰かに八つ当たりしたり。


情緒の乱れは誰にでもあることだから、わたしは、料理を褒めてくれて可愛いお洋服を買ってくれる優しいお母さんが本物だと信じて疑わなかった。


今の今まで、信じてた。



――ううん。

気づかないフリをしてただけで、本当はとっくにわかってたよ。

わたしは、あんまり愛されてない。



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