魅惑の絶対君主


客観的に見ても、地獄絵図みたいにひどい現実。


だけど、目が覚めたとき相楽さんの体温がすぐ近くにあって、わたしはひどく安心した。



もしかして……一晩中、こうしててくれたのかな。



そう考えると、胸の左側が少し大げさに反応する。


それを誤魔化すようにブランケットをぎゅっと握って。

ついでに、その布がわたし側に偏っていることに気づいて、そっと相楽さんの肩に掛けた。




──『今日はこれで終わり』


あれは、意識が落ちる少し前の記憶。


あのとき目を閉じていたから、定かではないけど……確かに、唇が触れていた……と思う。


ほんの一瞬、たぶん、かすめる程度のキスだったんじゃないかな。



考えれば考えるほど自信がなくなっていく。

なんせわたしは恋愛経験ゼロ。


キスの感覚なんて、知らないんだもん。


でも、キスだったとしても、キスじゃなかったとしても、相楽さんの優しさを感じたのはたしかだった。

< 71 / 245 >

この作品をシェア

pagetop