魅惑の絶対君主

「いいんじゃない。冬亜は逃げないでしょ」

「………」

「少なくとも、“今”は」

「……そう、ですね」



くすっと笑われる。

やっぱりお見通しなんだ。


逃げないっていうか、逃げられないんだよ。

あんな脅し方されたら。




「ここから出ない限りは好きにしてていいよ」

「……はい」


「あ、それと。帰ったら頑張ろうね」

「へ?」



一瞬なんのことかわからず首を傾げた。



「昨日の夜、“ちょっとでも高く売れるように頑張ります”って言ったでしょ」



心臓がドクッと大きく跳ねる。



「……わかり、ました」



そう小さく返事をして見送ったあと。


昨日相楽さんに触れられた部分が、ゆっくりと熱を持つのを感じた。


< 86 / 245 >

この作品をシェア

pagetop